2012年2月21日火曜日

妊娠を拡張する方法

[86]妊娠・お産と循環器病|循環器病全般|循環器病あれこれ|国立循環器病情報サービス

安心・安全ママへの道

国立循環器病研究センター
周産期・婦人科部
医師 神谷 千津子
元部長 池田 智明

もくじ

はじめに

赤ちゃんに恵まれ、母親になることは、女性にとって人生の大きな、かけがえのない出来事です。

しかし、重い循環器病をもつ女性には、妊娠・出産が自らの命を脅かす場合があります。また、普段の生活には何の支障もない程度の循環器病でも、思わぬ合併症が起きてしまうこともあります。中には妊娠してから循環器病と分かり、病気と向き合う方もいらっしゃいます。

初めての妊娠時には、つわりや胎動、大きなおなかを抱えての生活、そして分娩と、すべてが初体験で、多かれ少なかれ不安な気持ちにかられるものです。循環器病をもつ女性にとっては、なおのことです。

循環器病をもつ女性が妊娠・出産をするかどうかの人生の重大な選択をする際に、また、循環器病を持つ妊婦さんがどうすれば妊娠・出産・育児生活を安心・安全にすることができるかを考えるときに、このパンフレットの情報を参考にし、活用してください。

妊娠・出産に伴う心臓や血管の変化

女性にとって妊娠・出産はとてもうれしい出来事ですが、同時にからだの中では、おなかの中の赤ちゃんを育て出産するため、心臓や血管に大きな変化が起こります。どんな変化でしょうか。

(1)血液量が増えます

妊娠すると、からだを循環する血液量は徐々に増加します。特に血液中の液体成分である血漿(けっしょう)は、妊娠6週目頃から増え始め、20週後半には妊娠前より平均して50%増えます〈図1〉。これには次の三つの利点があります。

図1 循環血漿量、心拍数の変化

①妊娠の経過とともに、胎児を育む子宮は大きくなり、必要とする血液量が増え、新たな血管もできてきます。血液量が増えることで、新しくできた血管にも十分に血液が行きわたることになります。

②妊婦さんの腹部にある静脈は、大きくなっていく子宮によって圧迫されやすくなり、足などからの血液が心臓へ戻りにくくなります。血液量の増加によって、心臓へ戻る血液の量が減りにくいようにするのです。

③分娩時には平均で300~500ml(ミリ・リットル)ほど出血します。しかし、血液量が増えることで、このような急激な出血に耐えられるようになっています。

心臓を巡る血液量が劇的に変化するのが、分娩から産後数日間です。分娩時には出血で、一時的に血液量が減少しますが、その後数日間は、子宮が収縮し、子宮にプールされていた血液が心臓に戻ってくるため、再び血液量が増えます。こうして増加した血液量が正常に戻るまでに、出産後、約4~6週間かかるといわれています。

(2)心拍数(脈拍数)も増加

よりたくさんの血液を全身に送り出すために、心拍数(脈拍)も妊娠前に比べ約20%まで増加します。

また、妊娠中に脈が速かった反動で、産後には脈がゆっくりになる傾向があります。

(3)血圧は低く

妊娠中に増える女性ホルモンには血管を広げる作用があるため、妊娠初期から中期にかけて血圧は低下します。しかし、妊娠後期には血圧は妊娠前とほぼ同じか、もしくはやや高値となります。

(4)血液は固まりやすく

妊娠中は女性ホルモンの影響で、血液を固まらせる物質が増加します。これにより、流産や分娩などの出血時に出血が止まりやすくなる反面、血管内で血液が固まり(血栓)、血管を詰まらせるリスクが高まります。

(5)大動脈も変化

妊娠中は女性ホルモンの影響で、全身に血液を送る太い血管である大動脈の壁がもろくなります。

循環器病の患者さんが妊娠したとき

循環器病といっても、病気の種類、重症度、他の合併症の有無など様々ですから、お一人お一人によって、妊娠・出産のリスクは大きく異なります。ここでは、妊娠による体の生理的な変化を受けて、心臓や血管に起こりうる主な合併症について説明します。

【心不全】

心機能が低下している方や、弁の狭窄(きょうさく)などがあって、血液を全身に送り出しにくい患者さんでは、妊娠でからだを循環する血液量が増えるため、妊娠、出産期に心不全状態になることがあります。徐々に進行することもあれば、分娩直後などに短時間で進行する場合もあります。

おもな症状は、息切れや呼吸困難感、咳(せき)、むくみ、体重増加などです。これらの症状は、循環器病のない妊婦さんも訴えることがあり、妊娠によるものなのか、循環器病によるものなのかを見分けるのが難しい場合もあります。いずれにしても、経過中に新たに起こった、もしくは悪くなった自覚症状があれば、早めに医師に相談してください。

【不整脈】

心拍数が増えると、不整脈が悪くなりがちです。動悸や脈が飛ぶ感覚、失神など、不整脈の種類によって自覚症状は様々ですが、まったく症状のない場合もよくあります。

また、脈が遅くなる房室ブロックなど、もともと心拍数が少ない傾向の患者さんは、産後にさらに心拍数が減ることがありますので、めまい、失神、ふらつきなどの症状が出ないか、注意が必要です。


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【血栓・塞栓症】

血液が固まりやすくなっているため、心臓内の人工物(機械弁など)や、動きが低下したり不整脈が続いたりしている心臓内腔、血液がうっ滞している足の静脈などに、血栓ができやすくなります。

これらの血栓が血流で運ばれ、詰まると、脳梗塞、肺梗塞といった塞栓症を引き起こします。血栓を防ぐため、血液を固まりにくくする抗凝固療法がありますが、一部のお薬は胎児への影響があり、妊娠中に使用できないものがあります。

【感染性心内膜炎】

分娩や産科の処置時に細菌が血液中に入ることがあり、入った細菌が、心臓の弁などに感染した病気が感染性心内膜炎です。感染性心内膜炎のリスクが高い方では分娩時、予防のために抗生剤(抗生物質)の使用が必要になります。

【大動脈病変の進行】

大動脈に異常をきたす病気(マルファン症候群や大動脈縮窄(しゅくさく)症など)の患者さんは、妊娠によって大動脈が拡張し、瘤(こぶ)ができたり、大動脈の壁が裂けたりすることがあります。壁が裂けた場合は激しい痛みを伴いますが、大動脈が拡張するだけであれば、無症状のことが多いので、定期的な検査が必要となります。

【そのほかの妊娠合併症】

妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、分娩時の大量出血といった、妊婦一般に起こることがある合併症は、循環器病の患者さんが妊娠したときも起こり得ます。また、一部の循環器病においては、これらの合併症の起こる率が高くなることも分かっています。

こうした場合、もともとある循環器病のために、より病状が重くなったり、治療が制限されたりすることがあります。また、切迫早産の場合、おなかの張りを抑える薬(子宮収縮抑制剤)の一部は、心臓に負担をかける作用があるため、使用できないことがあります。

すでに説明しましたように、こうした合併症が妊娠・分娩・産後に起こるリスクは、各人によって大きく異なります。リスクを事前に把握し、できるだけ安心安全なお産を目指すには「妊娠前カウンセリング」が欠かせません。国立循環器病研究センターでは、周産期・婦人科で随時実施しています。

妊娠生活は長く、妊娠と分かってから8~9か月間にも及びます。妊娠初期にはつわり、中期以降はおなかの重みで日々の生活も大変です。その期間に、適量の、減塩した食事を規則正しくとり、無理をしない生活を心がけることが原則です。

妊娠中に増加した体重は、直接心臓への負担となります。循環器病の患者さんにとって、妊娠中の体重コントロールはとても重要ですので、毎日、体重を測定し、過度に増えないよう気を付けてください。

妊娠前・妊娠中の検査は?

心臓や血管の検査はいろいろありますが、妊娠中に受けても胎児への影響がないか、もしくは、ほとんどない検査について説明しましょう。

【心臓超音波(エコー)検査】

この検査は、人間の耳には聞こえないくらいの高い周波数の音波を利用して、心臓の動きをみます。母体にも胎児にも無害で、痛みもありません。検査によって、心臓の大きさ、形、心臓の壁の厚さ、動き方、さらに血液の流れる速度や方向により心臓の弁の状態などが分かります。

【安静時心電図検査・24時間(ホルター)心電図検査】

安静時心電図検査は、両手足と胸にいくつか電極をつけ、そこから心臓で発生するわずかな電流を記録する検査です。無害で痛みもありません。心臓の電気回路の異常やリズムの乱れ(不整脈)、心筋梗塞や心筋炎、心筋症などの特徴的な変化があるかどうかを調べます。

また、24時間連続して測定するホルター心電図検査では、1日を通じて不整脈が起こっていないか、狭心症など特徴的な心電図変化がないかなどを知ることができます。

【胸部レントゲン】

心臓の大きさや肺に水がたまっているかなど、心不全の状態を調べる検査の一つです。通常の胸部レントゲン検査(腹部遮蔽(しゃへい)なし)によって、胎児が受ける放射線量は0.01mSV(ミリ・シーベルト)未満です(注参照)。胎児に影響を与える放射線量は100mSV以上とされており、妊娠中でも安全に行える検査です〈表1〉。

(注)SV(シーベルト)は、放射線を受けた際の人体への影響を表す単位。

1mSVは、1000分の1SV

表1 検査から受けるおよその胎児線量
検査平均(mSV)最大(mSV)






腹 部
胸 部
骨 盤
頭蓋骨
1.4
< 0.01
1.1
< 0.01
4.2
< 0.01
4
< 0.01
C
T

骨 盤
腹 部
胸 部
頭 部
25
8.0
0.06
< 0.005
79
49
0.96
< 0.005




心筋シンチ(Tc-MIBI)
肺血流シンチ(Tc-MAA)
17
0.6

胎児に影響を与える放射線量は100mSV以上とされています。

【血液検査】

臓器の異常や貧血、感染していないかなどを検査します。


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なかでもBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)という検査項目は、心臓にかかっている負荷(負担)を示し、妊娠にかかわらず心不全の診断に有用な指標となります。妊娠中や分娩後に測ることで、心臓への負荷が以前より増えているかどうかを判断することができます。

【MRI検査】

この検査は放射線の被ばくがないので、妊娠中(特に妊娠中期以降)の検査として安全度が高いと考えられています。心臓MRI検査は、右心(心臓の右半分)の大きさや動きの評価、複雑な心臓の異常、術後の状態など、超音波検査では調べるのが困難な検査をすることが可能です。

以前から胎児異常の詳しい検査にMRI検査が使われてきましたが、この検査装置による騒音・磁場などが胎児に影響するかどうか、その詳細についてはまだ分かっていません。

循環器病の患者さんが妊娠したとき、経過が順調であれば、妊娠初期・中期・後期に検査を行います。リスクの高い方や、経過中に新たな症状や身体の異常などが分かった場合、追加検査をします。母体の状況によっては放射線被ばくを伴うCT検査、肺血流シンチ、心臓カテーテル検査なども行います。

妊娠中に使用する薬

胎児への影響を考え、妊娠中に使用できる薬剤には制限があります。

循環器病をお持ちの方が内服されるお薬の中でも、特に注意しなくてはならないのが、降圧薬として使われるACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬・ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、血液を固まりにくくするワーファリン、不整脈に使われるアンカロンなどです。

これらは、胎児に奇形や、腎臓や甲状腺などに異常を起こすことが知られています。

それ以外のお薬は、内服によって母体(ひいては胎児)が得られる有益性と、胎児のリスクとを比較して、有益性が上回ると判断する場合に使用します。

母体が心不全になったり、血圧の低下が続いたりすると、おなかの赤ちゃんの状態も悪くなります。適切なお薬によって、母体の心不全や血圧低下を防ぐことができるなら、お薬は飲んだ方がよいでしょう。

授乳中にお薬を飲むと母乳をあげられない、ということは決してありません。母乳授乳の可能なお薬もたくさんあります。お母さんが元気で子育てするために必要なお薬であれば、授乳中も飲んでいただいた方がよいと考えます。

妊娠・授乳中の内服治療については、医師・薬剤師に気軽にご相談ください。妊娠・授乳中の主な循環器治療薬のリスクは〈表2〉をご覧ください。

分娩で配慮すべきこと

分娩がいつになるかは、もともと持っている病気(基礎疾患)、合併症、妊娠経過や胎児の発育など、多くのことが関係します。


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表2 妊娠時の循環器治療薬
 薬剤名催奇形性胎児副作用母体副作用授乳中の服用
主な商品名
(一般名)
主に高血圧の
治療に使用す
る薬
アルドメット
(メチルドーパ)
安全性が高い 低血圧
倦怠感、口渇
おそらく可能
アプレゾリン
(ヒドララジン)
妊娠後期の注射薬使用で胎児機能不全や胎児不整脈
血小板減少
振戦(ふるえ)
低血圧
頻脈
頭痛
おそらく可能
アダラート
(ニフェジピン)
ペルジピン
(ニカルジピン)
胎児低酸素症(母体の低血圧をきたした場合) 低血圧、頭痛、動悸、子宮収縮抑制作用
(海外では切迫早産の治療に使用)
おそらく可能
主に高血圧や
心不全の治療
に使用する薬
アーチスト
(カルベジロール)
トランデート
(ラベタロール)
胎児発育遅延
徐脈
新生児低血糖
低血圧
喘息には禁忌
おそらく可能
テノーミン
(アテノロール)
インデラル
(プロプラノロール)
胎児発育遅延
徐脈
新生児低血糖
低血圧
喘息には禁忌
注意が必要
ラシックス
(フロセミド)
胎児の電解質異常
胎児発育遅延
胎児低酸素症
電解質異常
子宮血流障害
おそらく可能
アルダクトン
(スピロノラクトン)
胎児発育遅延
胎児低酸素症
電解質異常
子宮血流障害
おそらく可能
フルイトラン
(トリクロロメチアザイド)
血小板減少
溶血性貧血
低血糖、徐脈
電解質異常
子宮血流障害
おそらく可能
主に狭心症の
治療に使う薬
ニトログリセリン
(ニトログリセリン)
ニトロール
(イソソルビド)
低血圧
頻脈
おそらく可能
主に不整脈の
治療に使う薬
アミサリン
(プロカインアミド)
顆粒球減少
SLE様症状
可能
リスモダン
(ジソピラミド)
徐脈、失神
低血糖、排尿障害
子宮収縮作用
可能
キシロカイン
(リドカイン)
低血圧
胃腸障害
中枢神経系障害
可能
メキシチール
(メキシレチン)
胎児発育遅延
徐脈
低血糖
低血圧
胃腸障害
中枢神経系障害
可能
ソタコール
(ソタロール)
徐脈
不整脈
可能
ワソラン
(ベラパミル)
徐脈
心ブロック
低血圧
徐脈、低血圧 可能
アデホス
(ATP)
喘息には禁忌 可能
ジゴキシン
(ジゴキシン)
低出生体重児 胃腸障害
不整脈、知覚異常
低カリウム血症
可能
インデラル
テノーミン
上記参照

SLE:全身性エリテマトーデス、ATP:アデノシン三リン酸

一般に循環器病を持つお母さんでは、早産の確率が高いことが知られています。最も早産が多いのは、肺高血圧を伴うアイゼンメンジャー症候群と呼ばれる病気で、8割の方が早産となっています。

そのほか心筋症、弁置換術後、先天性心疾患、弁膜疾患なども早産しやすい病気です。先天性心疾患の修復術後や不整脈、僧帽弁逸脱症などの早産率は、普通の妊婦とあまり変わりません。

早産となった場合は、生まれた赤ちゃんの未熟性が問題になります。リスクが高い循環器病患者さんの妊娠に際しては、お母さんのリスクと、赤ちゃんの未熟性のリスクを考慮しながら分娩時期を決めていきます。

病気によっては、当初から帝王切開による分娩をお勧めする場合もありますが、循環器病があるからといって、必ずしも帝王切開と決まっているわけではありません。たくさんの方が経腟分娩で安全にお産されています。

しかし、循環器病の妊婦に分娩時のいきみは、かなりの負担となります。いきまないよう指導しても、本人は気張ってしまうのがお産です。分娩時にリスクのある方は局所麻酔をかけ、痛みを和らげます。

これは「持続硬膜外麻酔」と呼ばれる方法で、脊髄をとり囲む硬い膜の外側にチューブを入れ、持続的に局所麻酔剤を注入し、陣痛の痛みを軽くします。

ただし、痛みが和らぐと、いよいよ赤ちゃんが産まれるという時に十分いきめず、赤ちゃんがなかなか産まれないことがあります。そのようなときには、吸引分娩といって、赤ちゃんの頭に吸引カップを密着させ、引っ張って出産させることがあります。


分娩時期や分娩の方法、局所麻酔を使うかどうかは、緊急の場合を除き、事前に医師がご本人・ご家族に十分説明し、決定していきます。

産後はどんな注意が必要か

循環器病をもつお母さんにとって、実は産後が最もリスクの高い時期になります。特に産後1週間は、すでに説明しましたように、心臓に戻ってくる血液量が短期間のうちに大きく変化します。また、妊娠・出産の負荷(負担)は、産後しばらくの間、続くからです。

妊娠中は自分の体調を最優先にすることができますが、出産後は産まれたばかりの赤ちゃんの世話をしなくてはなりません。自分の体調など二の次になってしまう、これもリスクとなります。

そこで、ご主人やご両親といったご家族に、妊娠中はもちろん、授乳期、それ以後も積極的に育児に協力していただくことが欠かせません。妊娠中から、ご家族の役割分担をよく話し合って、産後の育児サポート体制を整えておいてください。

特に母乳授乳や睡眠不足などは、循環器病を持つお母さんにとって、大変な負担になります。ご家族ができるだけ、家事や育児(特に夜間の授乳など)を手伝える環境にしていただくことが大切です。

表3 病気別にみた避妊法の使用基準に関するWHO分類
低用量エスト
ロゲン含有避
妊薬
標準的なIUDミレーナIUSホルモンを用
いた緊急避妊
処置(ノルレボ)
発作性心房細動 3 1 1 1
ファロー四徴症根治術後
(合併症を伴わないもの)
1 2 1 1
未修復心房中隔欠損 3 1 1 1
拡張型心筋症 4 1 1 1
中等度以上の大動脈弁狭窄 2 3 2 1
僧帽弁機械弁を使用 3-4 4 3 1
チアノーゼ性心疾患
(肺高血圧症を伴わないもの)
4 3 2 1
アイゼンメンジャー症候群や肺高血圧症 4 4 4(3*) 1
フォンタン循環の患者 4 4 4(3*) 1

WHO分類群1:使用制限なし
WHO分類群2:全般に、使用の有益性が理論上または実質上のリスクを上回る
WHO分類群3:全般に、理論上または実質上のリスクが有益性を上回る
WHO分類群4:健康上のリスクがきわめて高い
*他に適切な避妊法がなく、妊娠のリスクが使用に伴うリスクを上回ると判断された場合には使用してよい
IUD:子宮内避妊器具 IUS:子宮内避妊システム

避妊の方法

妊娠を望まれないときは、確実に避妊することが必要です。

心臓や血管の生理的な変化は妊娠初期から起こり、合併症のリスクがあることは、すでに説明しましたが、避妊についてもこの点を踏まえて考える必要があります。

日本で使われている経口避妊薬(ピル)は、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの作用によって、血栓症を引き起こすことがあり、循環器病をもつ女性には使いにくい面があります。

各種避妊薬や避妊器具について説明します〈表3〉。

(1)低用量エストロゲン含有避妊薬

避妊効果は高いものの、副作用として、むくみや血栓症、血圧の上昇などが問題となります。血栓症や心不全の危険性の高い方には、安全性が確立しておらず、特にチアノーゼ性心疾患の女性では,この薬剤で血栓の発症が多いと報告されています。

この避妊薬を安全に使用できるかどうかは、合併する心臓病によって異なりますので、服用については、かかりつけ医師にご相談ください。

(2)コンドーム

正しく装着していれば、避妊効果は高いのですが、パートナー任せになるので確実性は劣ります。基礎体温測定との併用が好ましいでしょう。

(3)子宮内避妊器具(IUD/IUS)

子宮内に避妊器具を挿入する方法で、高い避妊効果があります。挿入時に感染症を合併する可能性があり、循環器病を持つ女性の場合、挿入時に予防的に抗生剤を使用します。また抗凝固療法を行っている方では出血が問題となることもあります。

この避妊器具は、抜去すれば再び妊娠が可能となります。

最近では、より高い避妊効果が期待できる「プロゲストーゲン徐放性子宮内避妊システム(IUS)」も発売されています。

これは、子宮内避妊具にプロゲストーゲン(女性ホルモンの一種)が含まれており、子宮だけに作用するため、血栓の心配はほとんどないといわれています。避妊効果が最も高いものの一つと考えられています。

〈図2〉図2 IUSによる避妊

(4)緊急避妊法

避妊が不十分と分かったとき、すぐに薬剤を服用し事後避妊を試みる方法があります。

わが国で広く行われているのが、ヤッペ法と呼ばれるもので、性交後72時間以内に中用量エストロゲン含有薬を服用し、その12時間後に再度服用するというものです。しかし、急激なエストロゲンの上昇で血栓ができやすくなる不安があります。


一方、本邦では近日発売予定(平成23年4月現在)の黄体ホルモン単独薬(ノルレボ)による緊急避妊は、エストロゲンを含まない薬剤ですので、比較的安全と考えられています。

先天性心疾患の遺伝について

循環器病の中には遺伝するものもあります。親が先天性心疾患の場合、子も先天性心疾患となる率は一般より高く、特に父親よりも母親が先天性心疾患の場合、子の先天性心疾患の頻度がより高いことが分かっています。

一般の先天性心疾患の発生率は約1%です。先天性心疾患の妊婦からの発生率は3~4%といわれています。ですから、母親が先天性心疾患のとき、胎児の心疾患のスクリーニングは入念に行います。近年、超音波検査による胎児スクリーニング検査も実施しています。詳しくは主治医までお問い合わせください。

おわりに

循環器病をもつ患者さんを診療・治療する目的は、患者さんの余命を延長するだけではありません。学校に行き、仕事もし、有意義な生活を過ごしていただくことも大切です。女性の患者さんにとって、妊娠・出産・育児は有意義な生活の重要な部分を占めています。

ただし、妊娠・出産は母体の心臓にとっては負担になるばかりです。その負担をできるだけ軽くし、妊娠・出産を乗り越えるだけでなく、長い目で見て負担のより少ないお産となるような周産期診療を目指しています。

循環器病といっても、さまざまな種類と状態があり、妊娠・出産のリスクはそれぞれの方で大きく異なります。より安心で安全な妊娠・出産を実現するためにも、お気軽に専門医にご相談ください。



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